製法・基準
黒漆の精製法について(黒漆のその性質とプロトコル)
1.黒漆の定義
当社の黒漆は「生漆(漉味漆)に鉄粉を加えて練り混ぜる」ものである。当社の精製新技術は漆と鉄粉だけで良質の黒漆を作る伝統的製法である。
この黒漆は、「鴉の濡れ羽根漆」と言われる、深みと艶があり塗膜は固く耐久性に優れる「最高級黒漆」である。
黒漆の水分量は15%前後が適量である。国産漆の黒漆は生漆を使用する。(国産漆の水分量は15%前後である。)中国産の生漆の水分量は27%~30%前後あり、鉄粉を入れて黒漆を作るには水分量が多い。中国産漆で黒漆を作るには、生漆から水分を除去して水分量を15%前後にする。(※一度透漆(水分量3%)にして、それに還元水を加水し15%前後に調整する。)
2.黒漆精製工程
工程 1
1.生漆(濾味漆)に鉄粉を加えて手ヘラで軽く混ぜる。
- 漆と鉄粉の割合は、漆100gに対して鉄粉6gが最適である。鉄粉の割合は黒色の濃淡によって割合比を変える。(100g:6gは経験的適量値である。)鉄粉が多いと発色が失われ(黒色が濃くなる)、少なすぎると光沢が失われる。
- 鉄粉が漆液で緩やかに酸化して鉄イオンになり始める。
- 鉄粉の量が多いと粘度は高くなり乾燥時間が長くなるので注意が必要。
2.漆の水分量は14%位が良い。(一般的には15%とされている)
- 中国産の場合は、透漆(水分量3%)に水分量15%になるように還元水を加水する。
- 水分量が少ない(11%~13%)と粘度の低い黒漆になり、硬化時間は早い。
- 水分量が多い(16%~20%)と粘度の高い黒漆になり、硬化時間は長い。
工程 2
3.鉄粉を入れた後、24時間寝かせる。鉄粉が酸化して鉄イオンになり始め茶色から濃い灰色のようになる。(酸化が進んでいる。)
工程 3
4.擂潰(30分)を行う。ゴム質水球を細かく均一にし、鉄イオンと漆(ウルシオール・ゴム質水球)を良く混ぜる。鉄イオンはウルシオールの酸化反応を促進する。(深みと艶のある黒色になる。)擂潰後に漆を濾す。
工程 4
5.擂潰後、温度20℃の室で5日から7日寝かせる。
6.5日~7日寝せた後、目の細かい布(又は和紙)で濾して、パウチに充填する。
■ 24時間寝かせる漆の化学反応について
1.24時間寝かせるとウルシオールと鉄イオンの反応で灰色へ変化する。
- 漆に含まれるウルシオールの酸性成分(主にウルシ酸)が鉄粉と反応し、鉄イオン(Fe²⁺やFe³⁺)が溶出し始める。錯体形成の初期段階を示している。
- 鉄粉表面が酸化され、可溶性の鉄化合物が生成される。
2.5日~7日寝かせる漆の化学反応について。
- 擂潰後5日間寝かせた時最も良い黒色になる。
- 擂潰によりゴム質水球と鉄粉の表面積が増大し、ウルシオールとの接触面が拡大する。空気中の酸素により鉄イオンがさらに酸化が進み、Fe³⁺(三価鉄イオン)が増加し錯体が形成される。この錯体が深い黒色と艶を生み出す。
■ ウルシオールの変化
- ウルシオールのカテコール構造(隣接する2つの水酸基)が鉄イオンとキレート錯体を形成する。
- 漆の酵素(ラッカーゼ酵素)による酸化重合も同時に進行し、漆膜の硬化と安定化が促進される。
- 鉄錯体の形成により、ウルシオールの重合反応が促進され、より強固な塗膜が形成さする。
■ 精製付記
1.擂潰で鉄粉粒子は細かくなり総表面積が大きくなる。ウルシオールとの接触面積が拡大する。擂潰で、漆に含むゴム質水球は小さくなり総面積が拡大する。
(重要)擂潰前に鉄粉をすり鉢に入れて乳棒で良く擦り、鉄粉粒子を細かく均一均等にすることは重要である。
2.生漆(漉味漆)と鉄粉の混合割合は、漆100gに対して6gが一番良い。
- 濃い黒漆を作る時は鉄粉の割合を多くする(100g:10g程度)
- 薄い黒漆を作る時は鉄粉の割合を少なくする。(100g:4g程度)
- 光沢のある黒目漆を作るには、漆の粒子(ゴム質水球塊又は分散相)を細かくする。
擂潰時間を45分から60分にする。この時の漆粒子(ゴム質水球)の大きさは0,5μ~1μ。(擂潰時間について実証実験で確認する必要がある。)
3.擂潰後に漆を濾す。
- 濾味漆及び鉄粉に含まれる小さいごみ等を取る。
- 濾し方は、少量の場合は、まずトレイ(受け皿)の上に網を置き、その上に和紙(長方形)を二枚重ねし網の上に横に置く。次にもう二枚を用意し横のものとクロスしておき、その上に漆を流して絞る(約10分)。クロス重は和紙の強度を強くする。漆の量が多い場合は漉機で濾す。
(2026年3月 いわて漆テック株式会社 及川秀悟/出典 日本粉体工業技術協会発行 粉体技術2026年3月号)
