うるしコラム
愛着のある器を再生する、金継ぎのすすめ
大事にしていた器が欠けたり壊れたりして使えなくなってしまったけど、愛着があるのでまだまだ捨てたくないというご経験がある方は多いと思います。そこで、自らの手で再生する「金継ぎ」の手順をご紹介いたします。
金継とは
日本の漆芸の伝統技法のひとつで、割れる、欠けるなど、壊れた陶器等の 破損した部分を漆で接着した後に、金で装飾します。
必要な装備
漆はかぶれますので、肌に触れないようにしてください。
- ゴム手袋(パウダーなしの物がおすすめです)を着用して作業をしてください
- 長袖/長ズボン/靴下でできるだけ肌が見えない服装にしてください。
必要な材料・道具
材料 |
【接着用】
【仕上げ用】
|
---|---|
道具 |
【作業用】
【掃除用】
|
金継ぎの簡単な手順
【1】器の洗浄
金継をしたい器をよく洗って乾かしておきます。漂白しておいてもよいです。汚れていると、接着してもまた取れてしまう可能性があります。
【2】麦漆づくり
破損した部分をつける時に使う「接着剤(=麦漆といいます)」を作ります。
- 作業板の上で、小さじ1杯程度の小麦粉に少しずつ水を加え、つきたてのお餅程度になるまで竹ベラでよく練ります。
- 小麦粉と同量の生漆を少しずつ 1.に加えていき、竹ベラでよく練り合わせます。
- 生漆と小麦粉は1:1の割合で混ぜます。
- 基本的に使う時に使う量だけ作ってください。日が経つにつれて乾きが悪くなります。
- 練り合わせる際は作業用の小さめのガラス板またはアクリル板を使うと便利です。
- 小麦粉に水を加えたり、生漆を練り合わせる際は、面倒でも少しずつ加えて、様子を見ながら作業して下さい。
【3】麦漆塗り・接着
麦漆を破損した陶器の断面の両方に出来るだけムラが出来ないようにまんべんなく塗っていき、きれいに塗れたらそれぞれを接着します。
- 竹ベラで麦漆を塗ります。
- 接着した時に、麦漆が少しだけはみ出るくらいがよい状態です。
- 使用後の竹ベラは(あれば水で希釈したエタノールで拭いて)ティッシュで汚れを拭き取ってください(竹ベラについた漆が固まるため)。
【4】接着部分の固定
マスキングテープで接着部分をズレないように固定します。
- 接着した時に、麦漆が少しだけはみ出るくらいがよい状態です。
【5】ムロ(室)での乾燥
半日程度置いてから、10日程度ムロに入れます。ムロとは、漆を塗った後に乾かす部屋のことです。
漆が固まる条件として、温度が約25℃程度、湿度が約70%~80%程度の環境が必要です。
そのような環境の漆を硬化させるための部屋をムロと言います。
必ずこの温度・湿度を保たなければいけないという事ではないのですが、上記の環境がより漆が乾きやすくなります。温度・湿度が低くても硬化はしますが、かなり時間がかかります。
今回は、身近にあるダンボールを使ったムロの作り方をご紹介しておきます。(アクリルケースもおすすめです。)
- ダンボールを霧吹きなどで少しだけ湿らせます。ダンボールの向きは縦でも横でも構いません。器のサイズに適した向きで使用して下さい。
- 底にビニールを敷きます。
- タオルまたは雑巾を濡らして、しっかり絞ってダンボール中に入れます。
- 器をダンボールに入れます。その時に、3. の近くに置きすぎないように注意して下さい。近くに置きすぎると、漆が急激に固まってしまい、きれいに接着しなくなります。
- また、器を置く角度は、接着面が下に向くように置くようにしてください。重力で押し付けられるように置きます。
- 湿度を保つために、ダンボールにふんわりと大きめのビニール袋をかぶせます。横向きの場合は入口に簾のようにかぶせてもよいです。
- 完成です。
ゆっくり乾かすほうがよりキレイにしっかり接着するので、まず半日程度置いてからムロに入れ、大体、1週間~10日程度、ムロに置いてください。
【6】表面の掃除
完全に固まってからムロから取り出し、マスキングテープをはがします。麦漆がはみ出していることもありますので、カッターや耐水ペーパーなどで削り取ります。
【7】錆漆づくり
隙間を埋めていくための「錆漆(さびうるし)」を作ります。接着後に隙間が見つかった場合に、錆漆(さびうるし)をヘラで埋めていくためです。
- 作業板の上で、小さじ1杯程度の砥の粉に少しずつ水を加え、練った砥の粉がまとまるになるまで竹ベラでよく練ります。
- 砥の粉の8/10程度の生漆を少しずつ 1. に加えていき、竹ベラでよく練り合わせます。
- 全ての材料を混ぜ合わせて、ピーナッツバター程度になれば完成です。
- 生漆と砥の粉は10:8程度の割合で混ぜます。
- 基本的に使う時に使う量だけ作ってください。日が経つにつれて乾きが悪くなります。
- 練り合わせる際は作業用の小さめのガラス板またはアクリル板を使うと便利です。
- 砥の粉に水を加えたり、生漆を練り合わせる際は、面倒でも少しずつ加えて、様子を見ながら作業して下さい。
- 使用後の竹ベラは(あれば水で希釈したエタノールで拭いて)、ティッシュで汚れを拭き取ってください(竹ベラについた漆が固まるため)。
【8】隙間埋め
錆漆(さびうるし)で隙間を埋めていきます。欠け等のある隙間に、錆漆を竹ベラで、薄く、平らに塗っていきます。
【9】再乾燥
ムロに入れて1日~2日置いておきます。
【10】研磨
耐水ペーパーを小さく切り、都度、水につけながら出来るだけ錆漆を塗った箇所にだけあてて、表面が平らになるように研ぎます。研いだあとで器についた水はティッシュ等で拭き取ります。
【11】色漆塗り
錆漆を塗った割れた箇所の上に、色漆を塗っていきます。
- 人によっては、金粉を巻く場合は黄色や弁柄、朱色といった色漆を使い、銀粉を巻く場合は白色漆等の色が薄いものを塗っていきます。
- 色漆は極々薄く塗ってください。
【12】金粉・銀粉撒き
11.が終わり、30分程度たってから金粉または銀粉を撒きます。お好みによって色漆で終了する場合もあります。
- 金粉は真綿で少量とって、色漆の上に置いて行ってください。その際に金粉のついていない真綿の部分が色漆につかないように注意して下さい。
- 金粉が隙間なく着いたら、余分な金粉を落とします。
【13】再乾燥・完成
ムロに入れて1日~2日置いておきます。ムロから取り出し、漆が乾いていれば完成です。
大変手のかかる作業ですが、完成するととても愛着の持てる一品に仕上がっていると思います。ぜひ、挑戦してみてください!!