うるしの精製技術

卓越した伝統の技を、科学の力で進化させた漆精製手法

伝統的な漆の精製は、職人が長年の経験から培われた卓越した技術に支えられてきました。いわて漆テックでは、熟練した職人の精製技術を含有成分や水分量など科学的根拠に基づく精製手法に置き換え、安定的に高品質な漆を精製する技術を開発いたしました。

減圧蒸留法とは 漆を高品質に保つ精製手法

伝統的な黒目漆精製方法の課題

伝統的な黒目漆精製方法では、生漆を加熱攪拌または天日により45℃以下の温度で温めつつ6~8時間程度撹拌し、水分を蒸発させて黒目漆の精製を行っています。

品質が良く、長期間の保存が可能な黒目漆の水分量は3%以下ですが、 撹拌中の生漆の水分量の変化は職人の経験によって判断されています。このため、作業の定点を決定するには熟練が必要になります。

また、水分量のほかに漆の品質を決めるものにウルシオールとラッカーゼという酵素を包含する蛋白質があります。これらは漆の硬化に関係する物質で、漆の硬化はウルシオールがラッカーゼの働きで酸化することによって起こりますが、 従来の加熱攪拌方式による45℃前後の温度での長時間撹拌をすると蛋白質が変質してしまい、精製した黒目漆の品質の低下を招くといわれます。

このように、従来の方法には精製技術や環境条件により品質にばらつきが出る可能性があることに加え、精製作業中、漆の成分が漆職人のアレルギー皮膚炎を引き起こすという大きな課題があります。

生漆の成分中にはかぶれの原因となるウルシオールとテレピン成分が存在しています。 この中のテレピンという揮発性物質は、撹拌中蒸発するため、漆職人は長時間にわたり常にこの炎症性物質であるテレピンにさらされることになります。

弊社で使用する「減圧蒸留器」

「カールフィッシャー滴定法」を利用した水分量の測定器

高品質の漆を安定的かつ安全に供給する、いわて漆テックの技術

いわて漆テックが採用した「減圧蒸留法」では、減圧蒸留器により温度・圧力が 正確に管理されたフラスコ内で生漆を撹拌し、水分の除去を行います。 この方法により、 従来の方法で6~8時間かかっていた精製時間を、わずか120~150分程度に短縮することが可能になりました。

また精製中の黒目漆の水分量の測定には、「カールフィッシャー滴定法」という手法を用います。カールフィッシャー滴定法とは、1935年にドイツの石油化学者カールフィッシャーによって発明され、化学分析においてサンプル中の水分含有量を測定する際に最もよく使われる手法です。高い正確性と精度を備えており、水分量3%の試料においては2.97~3.03%のように表示されます。必要なサンプル量が少ないことが最大のメリットであり、100mgのサンプルでも正確な値を測定することができます。

カールフィッシャー滴定法には、“電量滴定法”と“容量滴定法”の二つの異なる滴定方法があります。電量滴定法はppm単位の水分量測定に使用され、容量滴定法は%単位の水分量測定に使用されるため、当社では容量滴定法を用いて精製した漆の水分量を測定しています。容量滴定法は、0.1%から100%の水分量まで、検量曲線を作成せずに正確に測定することが可能です。

現在、滴定は自動化されたカールフィッシャー滴定装置で行われています。

この方法を利用して漆中の水分量を正確に定量することで、職人の経験と勘が必要な一定量の水分を含んだ漆を短時間で再現・生産することができます。

このような科学的手法による漆の精製には、さまざまな特徴があります。

減圧蒸留法の特徴

1) 品質の向上
35℃前後での撹拌と精製時間の短縮化により、漆の品質を決めるのに最も重要なラッカーゼ酵素の変性が起こらないため、硬化速度の速い良質なウルシオールの濃度を高く保つことができる。

2) 品質の安定化
科学的な計測手法で正確に成分の濃度を測定するため、精製する製品の再現性が高く、成分の安定した高品質の漆製品を供給することができる。

3) 製品競争力の向上
高品質の黒目漆を手頃な価格で供給できるため、最終漆器製品の品質向上・価格競争力の向上が期待できる。

4) 作業者の安全確保
かぶれを引き起こすウルシオールとテレピンの中で、炎症性・揮発性物質であるテレピンは生漆撹拌中のフラスコ内から直接屋外に排出される仕組みとなっている。このため精製作業者の健康を守ることができ、若い世代の新規就業を促せるという意味でも画期的な手法である。

私どもは、「減圧蒸留法」をベースに、漆産業に携わる皆さまのニーズにお応えするとともに、新しいニーズを生み出す革新的な商品開発に努めて参ります。