うるしコラム

漆ではない漆器?「新興漆器」とは

 お土産屋さんの店先に「〇〇漆器」と書かれた有名ブランドの商品が並んでいるのを良く見かけます。商品も定番の「お椀・お箸」から、最近は「スプーンやお猪口、花台、ネックレス」などもありますね。どれも「漆」のような「艶」や「重厚感」があり、「綺麗」なものです。伝統的な「漆器」との違いは素人目にはわかりません。

 ただ、価格が非常に安いんですね。「〇〇漆器」と書かれているので、有名産地品の漆器だから安心と思いますね。しかし、この価格の安い「〇〇漆器」は商品の底に貼られてある「品質表示」を見ると「原料・ウレタン(合成漆又は合成樹脂塗料)」などと書かれたものが多くあります。

新興漆器に圧される伝統的漆器

 この「合成樹脂・合成樹脂塗料」などを使用した「新興漆器」は、昭和31年(1956年)に中小企業庁が「漆器工業合理化指針」で、「漆器産業は伝統的な漆芸品と新興漆器のそれぞれの特徴を活かし分化と共存して産業の振興・近代化を推進した。」とし、「合成樹脂の素材、合成樹脂塗料」も「漆器」とすることで共存をする事をガイドラインに定めました。その結果、伝統的な素材と伝統的技法で制作する「伝統的漆芸品」よりも、合成樹脂を素材として合成樹脂塗料で作る「新興漆器」が、安い原料で大量生産する事ができ市場に多く出回るようになりました。漆産業の中では「漆」を使用しない「漆器」が、大量に生産される「非漆化漆器」が「伝統的漆芸品」を凌駕する事になってしまったのです。

 漆器の素材が合成樹脂と合成樹脂塗料で作られた商品も「漆器」といわれていますが、そもそもの「漆器」「漆芸」は、日本の伝統文化であり伝統工芸です。そして、その伝統工芸が継承されてきた背景は「天然の漆」の性質を活かして塗られた漆器「●●漆器」だからでした。

 購入した漆器が天然木を木地とした漆器か、合成樹脂を木地とした漆器か、気になる場合は水に沈めてみるとある程度わかります。合成樹脂は水より比重が重いため水に沈みますが、逆に、漆器の木地となる木材は水より比重が軽いため、「天然木を木地とした漆器」は水に浮きます。水に沈んだままであれば「合成樹脂を木地とした漆器」ということです。

「漆」という素材について

 漆は「ウルシ」という木の樹液です。樹液を採取し、濾過、精製して使います。強い接着力や抗菌性があり、「生の漆に触れると肌がかぶれる」と言いますが、そのとおり非常に刺激の強い物質です。酸やアルカリにも強く、金さえも溶かしてしまう液体である王水にも耐え、「一度固まった漆を溶かす方法はない」とも言われています。

 漆の主成分はウルシオールという樹脂分で、フェノール系の物質。上等な漆ほどウルシオール成分の割合は高くなります。温度や湿度が高くなると、ウルシオール中に含まれている酵素(ラッカーゼという)が活性化し、空気中の水分から酸素を取り込み、ウルシオールとの酸化反応によって、科学的には網目構造の巨大な高分子を構成します。

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